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4.日本企業の海外進出、

  ドイツ企業の海外進出(2)

前回の日本企業の海外子会社のイメージ図に続いて、

今回はドイツ企業の海外子会社のイメージ図です。

日本企業の構図と比べると、新たに登場するのは、

 - (現地採用の)子会社の経営者

 - 本社の管理部門

 - 子会社の経理

 - 現地の公認会計士

になります。

HOMEでも記載しましたが、ドイツ企業は、本社から派遣されて来た、本国人の正社員ではなく、現地で採用した人を、海外子会社の経営者にします。

ドイツ企業が、海外子会社の社長に、現地で採用した人間を据えられるのは何故か、

私は、その答えは、本社の 管理部門 が、海外子会社をコントロールしているから、と考えています。

そして、本社の管理部門は、海外子会社のコントロールにあたり、

会計の2つの特性 を、上手く活用しています。

以下、具体的に見ていきますと、

本社の管理部門は、子会社に対し、会計報告の作成・提出を指示します。

年に一度、期末の本格的な報告があり、期中は、毎月、途中経過を報告させます。

日本企業でも、同じようにしている会社は多いと思うのですが、

ドイツ企業が徹底している、と感じるのは、

その報告が、

現地政府・税務当局宛に提出するために、現地の会計事務所が作成する会計報告ではなく、

親会社が、自ら必要として、子会社に求める、独自の、全てを網羅した「会計報告」になる、という点です。

この会計報告は、親会社が理解できる、IFRS(国際会計基準)又はドイツ基準により作成されます。

もちろん「子会社の会計報告を、私たちが理解できるように、IFRS(又はドイツ基準)で作って下さい」と指示しても、

それだけで、それらの基準に準拠した会計報告を作れる子会社は多くないですし、

出来上がったものの品質にもバラツキが出来てしまいます。

なので、殆どの親会社は、子会社が、親会社が理解できる会計報告を作れるように、IFRS(又はドイツ会計基準)を噛み砕いた、細かいところまで記述した、独自の会計規程(Accounting Manual)を作成し、子会社に配付しています。

そして、そういうことをしているので、

現地の会計がどのようなものであっても、ドイツの会社は、自分たちが理解できる数字を把握ることができる。

例えば、ドイツの会社の日本にある子会社が作る「現地の会計」は、

日本の税務署に提出するために、税理士に依頼して作成してもらう、税法に基づいた決算書になる。

「現地の会計」については、現地の会計事務所に任せればよいと思うのですが、

「現地の会計」だけだと、どうなるか。

例えば、退職金。

日本の税法では、退職金は、支払った時まで、その計上を認めないので、

日本の会社が作る「現地の会計」には、退職金の支払義務が載ってこない。

ということは、子会社が、退職金の規程を設け、従業員に退職金を支払う義務を負っていたとしても、

「現地の会計」には、その支払義務があることが、表示されないので、

それだけを見ても、退職金の支払義務があることが把握できない。

でも、

ドイツの会社は、「現地の会計」とは別に、親会社が理解できる基準で、子会社に会計報告を作らせているので、

日本にある子会社が、退職金の支払義務という負債を負っていることを、普通に、把握している。

進出先が日本であろうと、他の国であろうと、

「現地の会計」が、一々どうなっているか、ということは、

会計事務所がやってくれるところは、会計事務所に任せれば良い訳ですし、

会社自身が理解しなければならないところは理解すればよいと思うのですが、

「現地の会計」がどのようなものであっても、また、それがどのように運用されていても、

重要なのは、

   親会社自身が

   子会社の状況を把握していること

に他ならない訳で、

ドイツの会社は、会計がそのために使える、ということを、

当り前のこととして知っている、ということになります。

因みに、ドイツの会社が、海外子会社に、親会社が理解できる会計基準で、会計報告を作らせることができるのは、

会計自体が、そういう特質を有しているからなんです。

例えば、銀座にあるA社という会社。

日本基準で会計報告を作ることもできますし、日本の税法基準で会計報告を作ることもできる。

米国基準でも可能ですし、ドイツ基準でも、フランス基準でも、ベトナム基準でも可能です。

また、それは、ニューデリーにあるB社でも、ブエノスアイレスにあるC社でも、同じことが言える。

要は、会計報告の作成者が、その基準を理解していれば、

銀座のA社、ニューデリーのB社、ブエノスアイレスのC社、どの国の、どの会社であっても、

国際会計基準、ドイツ基準、日本基準、その他の国の会計基準、等々、何れの会計基準でも、

その会社の会計報告が作れる。

言葉も、商慣習も、普通に飛び越えます。

そして、実態を、其々の基準で、写しとれる。

これが、会計の1つ目の特性 になります。

次に、親会社が子会社に、会計基準の遵守を徹底して求めると、何が起こるか。

徹底して求めれば求めるほど、子会社が作る会計報告の正確性が高くなる。

そして、

会計基準の遵守を徹底して求めれば求めるほど、子会社の統治が強化される。

特に後者の性質については、日本人は、余り認識していないと思うのですが、

ドイツ人は、会計の持つ、この特性についても、十分に認識し、活用している。

例えば、在庫の金額を確認するために、棚卸という、在庫を一つ一つ数える作業をすることは、多くの方がご存知だと思います。

日本だと、経理は、棚卸をした部門から、棚卸の結果をもらって、

それを以って、在庫の金額として転記すれば、事足りると思うのですが、

若し、会計を徹底的にやるとすると、これだけでは十分ではない。

と言うのは、棚卸で数えた結果は、数える前のデータと、普通は一致しない。

とすると、その差が何か、経理は知らなければならない。

何故なら、

例えば、差異の原因が、

お客さんが大至急、その商品を必要としていたので、営業の人間が、記録も付けずに客先へ納品した、ということであれば、

その納品に係る「売上」が計上されていないことになるので、「売上」を計上しなければならないし、お客さんにその分の請求をすることも必要になる。

若し、不足している理由が、

 

担当者が勝手に持ち帰ってしまったのであれば、

その担当者に返品を求めなければならない。

それにより、返品されたならば、在庫の金額は、棚卸の結果ではなく、戻ってきたものも含めた金額になるし、

返品されないのであれば、失われた在庫は、会社が売り上げた商品の原価(売上原価)ではなく、

「盗難による損失」を意味する、別の費用項目として、認識することが必要になる。

という具合に、差異が生じた原因一つ一つが、本来は会計行為として処理されるべきものなので、

会計を徹底的にやろうとすると、

経理は、そこまで把握しなければならなくなる。

で、経理がここまですると、

営業の人間が、記録を付けずに、商品を持ち出していたことも、

倉庫の担当者が、商品を持ち帰ってしまっていたことも、

経理により発見される。

と、こんな感じで、

会計をキチンとやる、ということは、

 

会社の中で起こっている問題を発見することと「同義」ということになる。

これが、会計の2つ目の特性 になります。

会計は、単に棚卸の結果の差異を究明すれば、それで完結する、というものではなく、

その対象は、経営者から、臨時雇用者まで、

販売、製造等の直接部門から、人事、総務等の間接部門まで、

会社の全ての事業活動を対象としている。

そのため、

この機能は、会社内の隅々にまで及ぶ。

因みに、

冒頭で、ドイツの会社と日本の会社の海外子会社の構図の異なる点として、ドイツの会社の方に、海外子会社の経理を登場させましたが、

これは、子会社の経理が、単に、事業部から来た数字を、転記して終わり、という集計係ではなく、

上のような役割を担っている人、ということを意味していたんです。

最後に、会計士ですが、

私は、ずっと、ドイツの会社の、日本にある子会社の「現地の会計士」をしていましたが、

日本人と感覚的に一番大きく違うところは、

日本人だと、会計士の監査というものは、法律や制度で求められているものでなければ、

わざわざお金を払ってまで、してもらうことはないし、

どうしても監査を受けなければならない時でも、

法律や制度をクリアする範囲で、必要最小限の労力、時間、コストでやってくれれば良い、

という感覚かと思いますが、

ドイツ人の場合は、

自分たちの資産である子会社の情報を、正確に把握したい、という目的があるため、

会計士の監査は、自らが必要とする、正確性を確保するための手段、という位置付けになる。

なので、

子会社の人に聞いて分からなければ、普通に、現地の会計士に質問をして来ますし、

HOMEにも書きましたように、本社の管理部門の人が日本に来て、丸一日、現地の会計士と質問のやり取りをする、ということも珍しくはない訳です。

で、子会社の中の統制の確保という点でも、会計士をしっかりと利用していて、

そもそも会計士に監査をさせるくらい、子会社に会計を徹底的にやらせているので、

 

それにより、どのような効果が期待できるかは、上述した通りなのですが、

それ以外にも、

会計士に監査の過程で発見した問題の報告を求める。

監査とは別に、CASH、人件費、在庫、等々、親会社が気になる領域について、

会計士に実施して欲しい手続を個別に定め、報告させる、ということも、普通にやっていることになります。

以上、ドイツの会社の海外子会社の管理について、色々と説明をしてきましたが、

 

彼等の構図を機能させる、最も重要な点は何か、と言えば、以下の2点になります。

① 親会社自身が、自ら、子会社のことを把握する、という、

  言われてみれば当り前のことを、当り前に、でも、徹底的に、やっていること。

② それをやるのは、事業部ではなく、管理部門であるということ。

  事業部の人たちは、事業について、親子間でコミュニケーションをしていますが、

  子会社自体の管理をするのは管理部門になります。

次回は、日本企業の海外進出の構造的な問題について、ドイツ企業と比較し、検討してみたいと思います。

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あっ、日本の「現地の会計」では、退職金は支払った時まで認識しないんですね。ふ~ん。

口を開けて待ってれば、必要な情報が自動的に口の中に入って来てくれれば、楽なんだけどな。

言葉も、文化も、考え方も、異なるところで商売するなら、会計は世界共通語だから、このチェック機能、使わない手はないよね。

​「餅は餅屋」だよね。

「こちらの考え通りの意見を出してくれないから、​会計士、変えちゃおう!」

という発言を、巨大企業のトップがする国。

WHO WE ARE 会計があると何が変わるか

会計って、世界共通語!

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